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Q
MA(マーケティングオートメーション)を成功させるための効果的な手法とは?
部品メーカー・営業部
A
コロナ禍での商談活動はZOOMやTeamsなどを使用してリモートで行わざるを得なく、リモート商談のノウハウがなければなかなか受注に結び付けるのは難しいと思います。そのノウハウは別の機会に述べるとして、今回はMAの有効性についてお話ししたいと思います。.........
Q
MA(マーケティングオートメーション)を成功させるための効果的な手法とは?
部品メーカー・営業部
コロナ禍の現在、対面営業は以前と比べてはるかに低下し業績も思わしくありません。
顧客とはリモートで何とか商談を行っているところですが、なかなか受注に直結できません。そこで我が社の上層部からは「今はMAの時代だ、なぜ早く取り組まないのか」と難題を押しつけられています。私は正直なところMAの大凡の概念は承知していますが、具体的にどのように取り組めば効果的なのかよく理解していません。MAの実効性のある取り組み手法やそのコンテンツなどについてご教授いただければ幸いです。
A
回答者:河内英司(日本BtoB広告協会アドバイザー カットス・クリエイティブ ラボ代表)
コロナ禍での商談活動はZOOMやTeamsなどを使用してリモートで行わざるを得なく、リモート商談のノウハウがなければなかなか受注に結び付けるのは難しいと思います。そのノウハウは別の機会に述べるとして、今回はMAの有効性についてお話ししたいと思います。
MAはマーケティングオートメーションと言われているように、企業のマーケティング活動を自動化することです。そこで明確にしておかなければならないのは、マーケティングの概念です。現在はマーケティングが様々な意味で使われていますが、本来の意味は「売れる仕組みを作る」ことです。一方で通常の営業活動はマーケティングではなくセリングと呼ばれます。セリングは「売る仕組みを作る」ことであり、商談活動を初め、売価や流通チャンネル、MD(マーチャンダイジング)などが含まれます。したがって御社が期待されているような受注に結びつく商談活動はマーケティングではなくセリングの範疇になります。
つまり、MAを導入したからと言って受注に結びつくわけではなくむしろマーケティングコミュニケーションの自動化が可能になる、と考えた方が相応しいと思われます。
こんなことをお話しすると身も蓋もないようですが、じつはマーケティングコミュニケーションの自動化であったとしても、その基盤になるCRMの整備はセリングにも不可欠で重要なものなのです。しかし現在、CRMはほとんどが既存顧客(商品を購入した顧客)の管理に用いられており、業績向上に寄与する潜在顧客(見込み客)をデータベース化して展示会の来場案内を初めとしたリードナーチャリングに生かしている企業はほとんど見かけません。その理由はリード(引き合い)の質が明確でないことと、理論的に見込み客は顧客の数十倍以上存在するためそのデータベースを管理するのが大変手間がかかるからです。しかし顧客の何十倍もの見込み客であればこそ、将来の受注の最大化に寄与できることもまた確かです。
仮にCRMを顧客データベースとして運用されているなら、たとえMAを導入してもあまり多くの受注は期待できません。なぜなら彼らはすでに商品を購入済みだからです。
MAはCRMを基盤にしてそこから様々なプロモーションを自動的に行いますが、重要なのは上述したように見込み客に対してプロモーションを行うことです。
そのためにもまず見込み客に限定したデータベースの構築が不可欠になります。そして見込み客を顧客化するための自動的な仕組みがMAには備わっているのですが、そのほとんどは自動化であるために何らかの指数や係数を用いて見込み客をスコアリングしていきます。つまり、ある見込み客が御社にとってほんとの顧客になり得るのか、などと言った要素をスコアで判別していくのです。
ここで問題はスコアリングに用いられる係数がどのような根拠で設定されているかです。MAに不可欠なWEBサイトの訪問履歴などから、多くの閲覧時間を費やしているからスコアが上がる、と言うような単純な仕組みでは大失敗してしまいます。WEBサイトの閲覧時間と購買意欲との相関はほとんどありません。むしろ購買意欲に直結するのは電話からの問い合わせです。しかし現状では電話での会話をデジタル化して見込み客データベースに連携させるのは非常に難しく、コールセンターや電話を受けた担当者などもMAの仕組みの一つとして参加してもらわなくてはなりません。
またMAでよく用いられるのはメールマーケティング機能ですが、これも非常に曖昧な要素を持っています。まずいわゆる宣伝メールはほとんど読まれませんし、受け取る側からすればただ五月蠅いだけのメールになり、回を重ねるごとに迷惑メールホルダ行きとなってしまいメールマーケティングどころではありません。
さらにMAで重要視されているWEBサイトの訪問者ごとのカスタマイゼーションですが、これも過去の閲覧履歴から訪問者に有用と思われるコンテンツを表示する仕組みです。しかし、一部のEコマースサイトで見られるように、過去に閲覧した内容の関連商品を表示されても購買意欲が湧くわけではありません。
このようにMAではマーケティングコミュニケーションを自動化するために、人間の不確実な感情や対象潜在顧客が属する企業システムなどは全く無視され、あたかもロボットを相手にコミュニケーションするようなかなり無理な仕組みが用いられているのが現状です。
ではなぜ今MAがこんなに注目されているのでしょう。それはBtoC分野における「衝動買い」の効果が大きいからです。現在ではほとんどの方が経験されていると思いますが、メールマーケティングやWEBサイトのカスタマイゼーションによってついつい買いたくなるような商品を見せつけられることが少なくありません。
それによってBtoC分野ではMAはかなり有効性があると考えられますが、御社のようなBtoB分野ではどうでしょう?まず衝動買いはあり得ません。さらに企業では社長を初めとしたいわゆる決裁者に対して自動化されたメールやカスタマイズされたWEBサイトの閲覧などとうてい期待できるものではありません。
つまりBtoB分野では商品の購買資金は企業のお金であり、そのため課長、部長、役員など多くのポストで承認を得る「稟議制度」が存在します。この稟議制度を自動化すればBtoB分野でもMAは可能になるでしょうが、稟議システムの自動化は企業のガバナンスに関わることであり、おそらくここしばらくは我が国では不可能でしょう。と言うより、稟議の自動化が可能になればそれこそ役職も何も不要になり組織のあり方が根底から崩れてしまいます。
このようにMAはまだまだ緒に就いたばかりの未熟な仕組みであり、しかもBtoB分野ではほとんど期待できないものと考えられます。一方で「いやいやMAはBtoB分野でも有効だよ」という意見もあると思われますが、それはメールマーケティングや見込み客スコアリング機能など一見有効に思える仕組みにある種の新規性からもたらされる満足感を感じているからだと思われます。そして仮にMAの導入によって受注拡大が達成されているとしたら、おそらく見込み客CRMを基盤に徹底したセリングの結果だと考えられます。
このようにマーケティングコミュニケーションの自動化としてのMAはBtoB分野でもある程度有効かも知れませんが、前述のようにどこまで見込み客の購買意欲に関与できるかは非常に疑問です。さらに、MAの導入による受注の拡大は稟議制度が大きく立ちはだかる我が国ではまず期待はできないと考えます。それよりもまず見込み客の整備とそれをもとにしたセリングに注力すべきかと思っています。
(BtoBコミュニケーション 2021年6月号より抜粋)
Q
カタログ、入社案内、統合報告書、PR誌などの紙媒体をWEBに移行するメリットはあるか。
計測機器メーカー・広報部
A
御社の上層部の方が言われるのはコロナ禍の今としては当然のことだと思います。しかしいつまでもコロナ禍が継続することはなく、いずれ収束もしくはインフルエンザと同じように共存する時期が早晩やってきます。.........
Q
カタログ、入社案内、統合報告書、PR誌などの紙媒体をWEBに移行するメリットはあるか。
計測機器メーカー・広報部
ほとんどの企業がそうであるように、我が社もコロナ禍でテレワークが増えお客様とのリアルな接点が少なくなっています。そのためカタログや入社案内、統合報告書、PR誌等の印刷物をお送りしても手元に届いているかどうか全く不明です。そこで、上層部から「こんな時代だからコストのかかる印刷物よりもWEBに移行し活用した方がよいのでは」と指示されています。そこで紙媒体をWEBに移行する際に気をつけなければならない点などについてご教示いただければ幸いです。
A
回答者:河内英司(日本BtoB広告協会アドバイザー カットス・クリエイティブ ラボ代表)
御社の上層部の方が言われるのはコロナ禍の今としては当然のことだと思います。しかしいつまでもコロナ禍が継続することはなく、いずれ収束もしくはインフルエンザと同じように共存する時期が早晩やってきます。
その時には従来通りのお客様とのリアルな商談などが急増してくると考えます。ただテレワークの効率性も無視できないため、リアルとテレワークの共存がしばらく続くと考えますが、いずれにしても印刷物の有用性は維持されると思われます。
ところで印刷物をWEBに移行する際の注意点ですが、その前に移行についてのテクニカルな問題よりも、もっと重要なポイントを考えておかなくてはなりません。
それは国内外で報告されている様々な調査結果から、総じて「紙媒体の方がディスプレイ(モニター)よりも理解度が深まり結果的に記憶の残留率が高い」と言う点です。たとえば、2013年に国内の情報管理ソリューション企業と研究機関が行った脳科学実験では、印刷物とディスプレイに接したときの脳の反応を測定しています。その結果は、同じ情報であっても紙媒体(反射光)とディスプレイ(透過光)では脳は全く異なった部位が反応しました。
紙媒体では脳の前頭葉皮質(情報を理解する部位)の反応が強く、ディスプレイではその部位の反応が弱まることが分かりました。海外からも同様の報告がなされており、ディスプレイよりも紙媒体が理解や記憶に優れている理由として「紙媒体はテキストを風景としてナビゲートする(Scientific American)」と述べています。つまりページ全体をテキストや写真などが混じり合った風景として見なし(パターン認識)、さらにそのページをめくるという動作は歩いてきた道に足跡を残すようなリズムを生じ、それが記憶をさらに高めると言うことです。それに加えて、ディスプレイで長時間読書をさせると目の疲れや頭痛などのストレスを引き起こす一方紙媒体では長時間にわたって読破できるという結果も示されています。
また2003年に英国のレスター大学で大学生50人に紙媒体とディスプレイで小冊子を読ませて20分後にテストを行った結果が興味深いです。
テストの際、ディスプレイで読んだ学生は短期的な記憶に頼る傾向があるのに対し、紙媒体で読んだ学生は文脈を含めて長期的な記憶になっていたことです。
これは上述したように紙媒体ではページをめくるという動作を含めて小冊子のコンテクストまで記憶し、それが情報の記憶をさらに増幅していると考えられます。
そしてこのテストの結論として「情報として目にするだけならディスプレイでもよいが、知識として理解したいなら紙媒体の方が優れている」と述べています。
ノルウェイで行われた紙媒体での読書とディスプレイでの読書のテストでも、紙媒体の方が実際に手に取ることができ、後から記憶を呼び覚ましやすいと言う結果が出ています。
このようにカタログなどの紙媒体はコンテクスト(文脈)や印刷物の手触り感などが複雑に脳に作用して理解と記憶に優位性をもたらしています。一方でディスプレイは、特に最近はWEBでのCMSの使用による編集の結果、どの企業も同じようなレイアウトで人間工学を無視した文字数の多い行(25文字がもっとも読みやすい)が氾濫し、WEBの普及とは裏腹にじつは理解度や記憶にはあまり期待できないと言う文献が多く見られるのは事実です。
このような前提条件をもとにご質問について述べていきたいと思います。
まずカタログは最終的に商談から購買に持ち込む重要なツールですから理解と記憶は不可欠です。したがってWEBよりは印刷物を拡充した方が御社の業績にも優位に作用するでしょう。
また商談には必ず営業担当がお客様の前で説明しますから、カタログづくりで最も重要なのは文脈をきちんと整理し説明しやすいような編集、さらには理解されやすいような編集が望まれます。前述したように「印刷物はテキストを風景としてナビゲートする」という実験結果からページごとの編集がいかに重要な要因になるか理解できると思います。
カタログをWEBに移行させても結局最終的には営業担当との商談によらなければ、受注には結びつきにくいと考えますし、多くの企業が行っているカタログをPDFで見せるのは前述の結果からあまり好ましいとは思えません。
統合報告書もかなりのページ数になるでしょうから、やはり紙媒体が優位でしょう。さらにこの報告書は企業ブランドに大きな影響を与えますから、単に報告するという義務的なものではなく読者に御社の活動内容を理解し記憶していただく絶好のメディアとなるはずです。その意味でも紙媒体できちっと企画されることが大切だと思います。
PR誌も同様にかなりのページ数になるでしょうから統合報告書と同じようにコンテキストを重視した読者の興味あるコンテンツが次の購買に結びつくメディアだと言えます。しかしPR誌だからといって商品や企業のPRだけを掲載しては、おそらく読者は見向きもしません。ここでは読者に有益な情報、たとえばアプリケーションやもっと広範囲な知識が得られる情報を継続して掲載することによって必ず御社のファンが生まれてくるはずです。このファンは次の購買にもっとも寄与してくれる重要な位置づけであること、そしてそれを可能にするのがPR誌という紙媒体です。上述したようにページをめくる動作などが理解と記憶に作用すると述べましたが、同様に定期的に送られてくるPR誌を「保存する」という行為もまた記憶に大きく作用します。つまり、長期にわたって保存するに値する顧客にとって有益なコンテンツがPR誌には求められるのです。
ところで入社案内は少々趣が異なってきます。読者は学生であり、しかも数十、数百社の入社案内を手にするわけですから、ここではカタログなどの長期的な理解よりも短期的な理解の方を期待したいところです。
その意味からすると入社案内に限っては紙媒体よりもWEBの方が有効かも知れません。ただ前述したようにCMSに沿った無機質なサイト編集では短期記憶すら期待できません。むしろイラストやマンガなどを多用した「見て分かる」入社案内サイトが効果的だと思われます。
このように紙媒体を単純にWEBに移行するのは極めて危険ですし、どうしても移行せざるを得ない場合はCMSを利用せずに独自の編集技術で制作しなければなりませんし、そうなれば印刷物以上のコストがかかってしまいます。
それにもまして人間の脳は単純ではありませんから、前述の国内外の認知テストの結果を見ると、入社案内以外は紙媒体の方が読者の理解度や記憶の増幅、つまり受注やブランディングへの寄与度についてははるかに有効だと考えます。
(BtoBコミュニケーション 2021年8月号より抜粋)
Q
広告活動に対する評価基準と予算設定の具体的手法。
電子機械メーカー・コーポレートコミュニケーション本部
A
ご質問の内容は広告活動の適正な評価基準をどう設定するかと言うことと、広告予算をさらに増額するにはどのように会社を説得すればいいかと言うことですね。 いずれも非常に難しく企業それぞれの慣習がありますのでここでは基本的な考え方について述べさせていただきます。.........
Q
広告活動に対する評価基準と予算設定の具体的手法。
電子機械メーカー・コーポレートコミュニケーション本部
弊社では広告活動に対して評価指標が定められています。数値化されたその指標によって広告活動の成果が判定され、その結果が次年度の予算策定にも関係してきます。
ただ日頃から感じているのは、広告活動の評価基準がかなり硬直的であり、しかも評価数値によって機械的に広告活動の成果が評価され、広告予算にまで影響を及ぼしていることに疑問があります。
そこで広告活動の評価基準をどのように考えればいいか、また広告予算はどのようにして交渉すればもっと増額されるのかご教授いただければ幸いです。
A
回答者:河内英司(日本BtoB広告協会アドバイザー カットス・クリエイティブ ラボ代表)
ご質問の内容は広告活動の適正な評価基準をどう設定するかと言うことと、広告予算をさらに増額するにはどのように会社を説得すればいいかと言うことですね。
いずれも非常に難しく企業それぞれの慣習がありますのでここでは基本的な考え方について述べさせていただきます。それに基づいて御社で独自に設定されるのがよいと思います。なぜなら、とかく企業は広告活動の基本的な本質を理解せず、広告予算を経費として捉えるため少しでも削減する傾向が強く、そのことが企業自らの弱体化を招いていることが少なくないと考えるからです。
まず広告活動の成果基準についてですが、御社ではどのような評価基準をお持ちなのか具体的に示されていませんので次に述べることはすでに実行されているかもしれません。
企業の広告活動と言っても単純にマスメディアを利用した広告のみを対象としている場合と、カタログやWEBサイト、展示会等いわゆる販売促進(プロモーション)も含めて広告と理解されている場合があります。
ここでは後述したすべてのメディアを対象として広告の評価基準について述べたいと思います。
まずマスメディアを利用した広告の場合、とりわけBtoB業界では広告のみで製品が売れることは考えられません。しかも昔のように広告を見て企業に問い合わせが寄せられることも極めて希です。広告の引き合い(広告効果)は今日ではまずWEBサイトに流れます。そこで広告の読者はWEBサイトを見て終わるか問い合わせ(ほとんどの場合問い合わせフォーム)まで到達するかによって成果は変わってきます。
単純に広告からの引き合いを考えればWEBサイトのユニークユーザー数の伸びや直帰率、離脱率に加えてどのページを回遊したかを慎重に分析しなければなりません。その結果によって広告の成果が判定されるのです。
これは製品広告であってもブランディング広告であっても、さらには交通広告などについても同じような分析が必要になってきます。
次に近年流行しているインターネット広告ですが、これは単純にランディングページへのアクセス数で評価できます。ただしここで問題なのはインターネット広告の場合必ずしもランディングしたから有効な見込み客とは言い切れない部分があります。できればランディング以降の問い合わせフォームまで到達したかどうかを検証する必要があるかも知れません。
個人的には以前本欄で述べたようにBtoB業界においてはインターネット広告はあまり効果は望めないと考えていますし、その理由については紙幅の関係上過去の記事をご覧ください。
そしてカタログですが、これはメディアと言うよりも営業ツールと捉える方が好ましいと思います。つまりカタログの広告成果は営業担当のスキルの優劣によって大きく変化してきます。カタログの編集がいい加減であっても営業担当のスキルが高ければ受注に寄与できますが、どんなにコストをかけた素晴らしいカタログでも営業担当の商談スキルが劣っていれば受注にまで持って行けません。
要はカタログの広告評価指標は「受注額(台数)」と理解できますがその評価には営業担当の能力という「変数」がかなり大きく影響してしまいますので確たる評価基準の設定は難しいと考えます。
展示会を広告と捉えるかどうか異論のあるところですが、参考までに展示会の評価基準についても述べておきます。
展示会は他の広告のようにメディアの一人歩きは期待できず、あくまでもブースに訪問された見込み客との商談による受注が最も重要な評価指標になります。
したがって、未だに重視されている展示会の来場者数ではなく展示会における受注額(あるいは受注予定額)と言う簡単な指標になります。
そのためには展示会に取り組む前にまず当該展示会でどの程度の受注を目指すのか、そしてそのためにはどの製品を何台成約させればいいのか、必要な説明員(商談員)はどの程度なのかを明確にしておかなければなりません。この数字はまず展示会での受注予算を決めれば御社の一般的な販売費から自動的に割り出すことが可能です。そしてこの結果から当該展示会に費やすコストも同時にはじき出されます。
したがって、展示会における評価基準は受注予算を達成できたか否かによって簡単に決まります。
以上が主な広告の評価基準として考えられますが、ここに大きな落とし穴があることを忘れてはなりません。
上記ではいずれも広告を行って少なくとも半年以内、あるいは一年間の成果を評価指標と照らし合わせて判断するように見受けられますが、ここにBtoB業界特有の購買特性があることに気をつけなければなりません。
ほとんどの企業の当期予算は少なくとも半年前には決定しています。展示会の項で述べたように受注予算から始まり、売上予算、設備投資予算、広告費を含めた経費予算、減価償却費や固定費などすべての会計上の項目が半年前には策定されるわけです。
御社の場合は相手企業の設備投資予算によって購買決定がなされると思いますが、ごく低額の商品以外は半年前に策定された予算にしたがって執行されます。つまり、広告や展示会などで相手企業にいくら購買意欲があったとしても当期には受注として計上されないケースがほとんどです。
したがって評価基準はこのことを前提に最低でも3年間程度の期間にわたって評価しなければなりません。でなければ今期の広告計画がこうだったのに結果を評価基準に合わせれば全く評価できない、と会社は捉えてしまう可能性があるのです。それは相手企業の予算策定から執行までのタイムラグが考慮されていないからです。
御社の評価基準が硬直的と述べられていますが、広告は人や企業など多くの変数を抱えた対象について一つの評価基準では全く対応できないのが現実です。しかも評価数値によって機械的に成果を評価することなど到底できるわけがありません。さらに前述したように、BtoB企業では相手企業の予算策定を見込んでの活動となり、その期間が1年後から3年後に渡るものであるなら広告予算は経費と言うよりも「投資」と捉える方が賢明です。つまりほとんどの企業が広告部門を未だにコストセンターと見なしていますが、早晩プロフィットセンターとして捉えることにより広告活動そのものが大きく改変できるものと考えます。
最後に広告予算についてですが、上記の評価基準とは別にBtoB企業の一般的な売上高広告宣伝比率(販促費含む)は0.7~0.9%程度であることを申し添えておきます。
(BtoBコミュニケーション 2021年10月号より抜粋)
Q
企業での広告活動の基本と考え方について。
半導体メーカー・営業企画本部
A
まず広告業務の基本についてお話ししたいと思います。広告は言うまでもなく発信者情報が読者に納得され、その結果として企業の再認識や商品の購買に寄与できることが最大の使命です。ここで気をつけなければならないのは、「納得」と「認知」を混同しないことです。.........
Q
企業での広告活動の基本と考え方について。
半導体メーカー・営業企画本部
最近、広告分野でもDXなどデジタル化やマーケティングの重要性が叫ばれています。我が社でも広告部門に対して広告のDX化を指示されています。しかし広告のDXとは何か、がそもそも理解できませんし、近年変化しつつあると言われている広告そのものの基本的な役割や社内での対応のしかたがますます分からなくなり困惑しています。ここで一度基本に立ち返って、企業内部での広告業務について考えてみたいと思います。参考になる考え方などご教授いただければありがたいです。
A
回答者:河内英司(日本BtoB広告協会アドバイザー カットス・クリエイティブ ラボ代表)
まず広告業務の基本についてお話ししたいと思います。
広告は言うまでもなく発信者情報が読者に納得され、その結果として企業の再認識や商品の購買に寄与できることが最大の使命です。ここで気をつけなければならないのは、「納得」と「認知」を混同しないことです。いくら「認知」されても読者の購買動機が生まれるとは限りませんが、「驚きを伴う納得」は購買動機や情報発信者への好感度の増幅に大きな影響をもたらします。
ところでおよそ50年前の広告はまさに文字通り自社の製品や技術を広く告げることが使命でした。それはモノや情報が少ない時代だからこそ、と言う背景があります。しかし現在は企業自ら発信するWEBサイトやSNS、ネットショップなどによって企業情報はもちろんモノでさえ簡単に入手できるようになりました。このような時代、広告によってモノや技術に関する情報を伝えるだけでは本来の広告の使命を果たすことはできません。
その前に企業や人はなぜ商品を購入するのか?を考えなければなりません。とくにBtoB分野に限って言えば、欲しいから買う、のではなく必要だから買うのです。そして購入資金は個人ではなく企業のお金になります。そのため余程の低価格の商品以外は社内での承認が不可欠になってきます。
では必要だから買う場合の必要性とはなんでしょう。この場合は単なる消耗品ではなく当該商品を購入した後どの程度の利益や生産性の向上を企業にもたらすか、が求められます。したがって、広告では単に商品や技術の優位性をアピールするだけでなく、その商品や技術が購入企業にどのようなメリットを提供できるのか、をわかりやすく述べなければなりません。
こうしてみると、現在のほとんどの広告が自社製品のアピールを行い、購入企業側の問題点や課題に沿ったコンテンツになっていないことが分かります。
ここまで述べればもうご理解いただけると思いますが、広告業務で最も重要なのは顧客側の課題をまず把握し、その解決策(ソリューション)を広告で伝えることなのです。とは言っても様々な分野にまたがる顧客が抱えている課題をすべて把握するのはとうてい無理のように思えます。しかも重要なのは顧客ですら把握していない課題がその業界に存在し、やがて重大な課題としてクローズアップされることがあります。そのためにはまず顧客の属する業界の現状(特に技術のトレンド)を知り、将来どのような課題が生まれるのか、を推理することが重要です。
これは非常に難しい業務になりますが、慣れてしまえば不思議と将来予測が可能になります。が、そのためには特に技術面で顧客企業の属する分野以外のすべての分野の技術動向を頭に入れておくことが必要です。
つまり広告業務で最も重要なのは、顧客を含めたマーケット(世界中)の技術トレンドとその技術がもたらす課題(不具合の予測)を常に自分の引き出しに持っておくことです。
要するに広告業務では自社技術はもちろん、世の中のあらゆる技術情報を常に仕入れておくことが不可欠となります。例えば御社は半導体メーカーですが、将来的には全く関係のない「バイオ」技術が顧客課題の解決に必要になることも考えられるのです。
もし広告にDXを取り入れるとしたら、この情報収集と分析(インテリジェンス)が効率的に行える仕組み作りの一環として捉えるべきであり、広告そのもののDXはあまり意味がないと考えます。
よく広告に関する書物などで、広告業務で重要なのはステークホルダーとの関係性を構築すること、などと書かれていますが、そんな抽象的なことではよい広告は生まれません。まずは前述のようにあらゆる分野の技術動向と将来へのトレンド、さらには新しい技術が引き起こす課題の探索が欠かせないのです。
そしてその課題をまず告知し、それに対して御社の技術でどのようなソリューションが提供できるのか、を述べることが最高の広告になります。その結果、社員はもちろん取引先や株主などあらゆるステークホルダーに好意的な企業認識が可能になるのです。
仮にマーケットで現実課題として認識されていない重要な課題がありそうだとしても強引にメッセージすべきです。なぜならもし数年後にその課題が白日の下にさらされたら、広告を見たオーディエンスはどのように感じるでしょう。「あの企業は以前からこの課題を指摘していた。よほど技術の将来性を熟知した素晴らしい企業だ。あの企業なら信頼できる」と舌を巻くでしょう。そしてこの顧客や社会から得られた信頼がその後の経常的な購買に貢献できるのです。
御社の広告担当部門がどのような組織になっているのか分かりませんが、どんな大企業であってもすべての自社技術については一通り理解し、それがどんな産業分野で貢献できるのか、を推測することも重要です。とかく企業が大きくなると、広告部門はいくつかの担当に分かれて自分の担当以外の技術はよく分からない、と言ったケースを耳にしますがこれではよい広告は作れません。
御社の中でも毛色の違う様々な技術を組み合わせることで、顧客課題の解決に寄与できるかも知れませんし、それが新製品として商品開発に貢献できるかも知れないのです。そうです。広告業務の最大の醍醐味は、自社の開発部門や営業部門でさえ把握していないマーケットの課題をいち早く熟知し、広告はもちろん新技術や新商品開発のサポートができる重要な部門なのです。
そしてとりわけ重要な問題として、広告の審査を社内の役員などを前にしてご意見を頂戴する、と言うのがありますがこれは全く時間の無駄です。なぜなら広告担当は社会の課題に対して取り組んでいるのに、社内の役員達はあくまでも社内論理で審査します。そこには顧客が抱える課題解決の意識はほとんどないでしょう。そして力関係からどうしても役員の意見に沿わざるを得なくなってしまいます。これが前述した自社技術や商品のアピール広告であり、オーディエンスにはほとんど刺さらない自己満足の広告になるのです。
広告業務の担当者はもっと自信を持って「社会では今この広告の方が受け入れられます」を役員に対して意見すべきでしょうね。
とは言っても現実的には大変難しいと思います。ほとんどの企業は相変わらず役員の意見を取り入れたアピール広告でしか対応できないでしょう。変わりようのないこのような時代は、他企業とは違ったメッセージを社会に投げかける大きなチャンスでもあり、社会や顧客から真の信頼と高い好感度を勝ち取ることにもつながってくるのです。
(BtoBコミュニケーション 2022年2月号より抜粋)
Q
外資系企業が日本での販促のために認知度を上げる有効なコミュニケーション展開とは
外資系電気機械メーカー・営業部
A
認知度向上のための目的が販売促進であることと御社がBtoB企業であることから当該手法はかなり効率的な展開が可能ですし、とりわけ外資系企業だからといった特別な手法は必要ありません。.........
Q
外資系企業が日本での販促のために認知度を上げる有効なコミュニケーション展開とは
外資系電気機械メーカー・営業部
弊社は中国に本社を持つ電気機器メーカーです。すでに建設業や自動車など多くの製造業に納入実績があり、展示会出展や専門誌での広告展開も行っていますが、日本での認知度が低く思ったような成果に結びついていません。そこで、まず認知度を上げることが必要だと思っていますが、即効性のある認知度向上のための手法などがあればご教授いただきたいと思います。
A
回答者:河内英司(日本BtoB広告協会アドバイザー カットス・クリエイティブ ラボ代表)
認知度向上のための目的が販売促進であることと御社がBtoB企業であることから当該手法はかなり効率的な展開が可能ですし、とりわけ外資系企業だからといった特別な手法は必要ありません。
まず最も重要なのは、WEBサイトの充実です。認知度向上のための手法として一般的にはマスメディアを活用する企業が多くありますが、御社の期待されている販促に結びつく認知度向上と言うことは、受注に直結する認知度でなければなりません。つまり、購買の可能性のある潜在顧客に対して認知されることが不可欠となってきます。広告などのマスメディアでは潜在顧客以外もターゲットに入ってきますので、仮に認知度が向上しても受注効率はかなり低くなってしまいます。
そこでWEBサイトを充実させるための手法ですが、現在我が国ではおよそ80%の人はグーグルの検索エンジンを使用しています。と言うことはまずグーグルの検索アルゴリズムをよく理解することが大切ですが、膨大なアルゴリズムを一つ一つカバーするのは大変で、しかもそのアルゴリズムも毎年変更が加えられています。
そのアルゴリズムの中でも最も重要視されるのは、WEBサイトのコンテンツが訪問者の役に立つかどうか、をAIが判定しグーグルのインデクサーにインデックスされることです。
インデクサーにインデックスされなければ、いくら検索を行ってもヒットしません。訪問者の役に立つコンテンツとはどのようなものか、が一部公開されていますが、まずは一つのテーマについて最低2000文字程度のコンテンツならかなり高い確率でインデックスされます。これは、簡単に言えば、チラシ程度の内容よりも書籍や百科事典ほどの濃密な内容を持つ方が訪問者の役に立つ情報が提供できる、と判断されるのでしょう。
しかもここで重要なのは、とかくコンテンツは一般にも分かりやすく記述されがちですが、御社の潜在顧客はすべて専門家であり、検索は当然のことながら専門用語を用いて行います。したがって2000文字以上のコンテンツにはできるだけ多くの専門用語をちりばめた方が検索時のヒット率は高くなります。
次に重要な点は他社や団体から御社のサイトができるだけ多くリンクされていることです。つまり、多くの組織からリンクされるのはそれだけ役立つ情報だから、とAIが判断するわけです。かといって顧客にリンクを依頼するのも気が引けるでしょうし、できれば業界団体などの組織に依頼してリンクしていただく方法も考慮した方がいいかもしれません。
こうして検索に有効なサイトができあがれば、次に重要なポイントはいかにしてリード(問い合わせ)を得るかと言うことです。そのためには問い合わせページが常にどこかに表示されていることが必要ですし、できれば電話での問い合わせのために各ページに電話番号を表示するのも有効です。ちなみにあまり知られていませんが、BtoB企業の場合問い合わせはWEBページからの問い合わせよりも電話による問い合わせの方がはるかに多いという現実があります。
最近はマーケティングオートメーションでWEBサイトからの問い合わせをデジタルで見込み客(潜在顧客)データベースに連携する企業が少なくありませんが、電話での問い合わせはデジタルではないために見込み客データベースに入ってこないケースが散見されます。したがって電話問い合わせがあった場合、どのようにして見込み客データベースに入力するか、を営業部門やコールセンターに徹底しておかないとせっかくの見込み客を逃してしまうことになります。
ここまでが認知度向上のための第一段階です。第二段階からはズバリ展示会になります。WEBサイトから得られた見込み客には企業の業種や問い合わせ者の職位、予算やその執行時期など企業によって様々です。そこで見込み客データベースではこれらの情報を整理しなければなりません。
業種はともかく、最も受注の可能性が高いのは、予算を持っていることとその執行時期が間近であることです。
そしてこの見込み客データベースをもとに、展示会にはまず予算を持ちしかも執行時期が2年以内の見込み客を選別し、その潜在顧客だけを呼び込むことが大切です。とかく展示会には多くの来場者を期待しがちですが、御社のブースに数百人も来られると説明員の数にもよりますが十分な商談(最低でも一人15分以上)はできません。したがって展示会に来ていただく方は、見込み客データベースをもとに十分な説明ができるだけの限定された有効見込み客に縛る方が受注効率は高くなります。この手法で行うと展示会での受注確立は70%程度にまで向上させることができます。ちなみに上記の事柄を考慮せずに多くの来場者を呼び込んだ場合の受注率は5~15%程度とROIは非常に低下します。
御社がすでに展示会に出展されてはいても効果が上がっていない最大要因は上記の有効見込み客を招いていない結果だと考えます。
認知度の向上のために展示会が有効だというのは、あらゆるメディアの中で展示会だけが唯一Face to Faceで会話できしかも展示会会場で御社の技術を実演できるからです。
人と人との直接的な会話は認知にとどまらず記憶の残留度を向上させます。また同じように展示会会場での実演も記憶残留率に大きく影響しますし、可能であれば来場者が直接操作できる状態にしておくことでさらに記憶残留率は確固たるものとなります。
御社のお問い合わせ内容は認知度の向上となっていますが、販促(受注)に直結させるには認知の次の段階である「記憶の残留」が重要であることを認識しておかなければなりません。
最後にBtoB企業特有の重要なポイントをお話しします。
どの企業であっても予算がなければ購買には結びつきません。そしてこの予算設定の時期は当該企業の期首から遡って半年前には策定されます。つまり、御社の商材を購入する場合はおそらく設備投資予算になると思いますが、この予算も他の受注予算や経費予算などと同様に半年前には明らかになっているのです。
ということは、例えば今展示会で商談を行っても3月期決算の企業であれば昨年の9月に予算設定された予算の範囲内で購買すると言うことになりますので、消耗品費などに該当する少額の予算以外は来年の3月以降でないと受注できないことになります。企業によっては半年ごとに見直される場合もありますが、いずれにしてもBtoB企業特有の予算設定を考慮したうえで、商談に臨まれた方が良いと考えます。
つまり、展示会でかなり有効な見込み客であっても商談が即座に受注に結びつくケースは希であることを十分認識しておくことと、だからこそ半年以上にわたる継続したコンタクト(再商談を含む)が不可欠であることを十分理解しておくことが重要です。
(BtoBコミュニケーション 2022年6月号より抜粋)
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